○ANOC(動物愛護地方議員の会)10周年記念総会・講演会
1.会のあらまし
全国の地方議員有志で結成しているANOC、「動物愛護地方議員の会」に私も名を連ねて
おります。
とはいえ結成から10年、メンバーが一堂に会する機会はこれまでありませんでした。
10周年の佳節にご案内をうけ、総会に出席しました。
いま話題を呼んでいる熊本市の「殺処分ゼロ」への取組み。今回の総会はその熊本で開催。
同市動物愛護センターの所長の講演を準備してくれました。
全体の流れは、
13:00 開会
13:30 講演1「殺処分ゼロを目指して」
熊本市動物愛護センター所長 松崎正吉氏
14:45 講演2「動物愛護管理の制度の見直しについて」
環境省自然環境局総務課動物愛護管理室
室長 石山理行氏、副室長 今川正紀氏
16:00 閉会
以上でしたが、ここでは講演1について詳述し、同2については省略します。(詳細資料あり)
なお文責は内田俊英にあります。
2.講演「殺処分ゼロを目指して」
○熊本市の動物愛護センターの状況
昭和45年「畜犬管理所」として現在地に移転
51年「動物愛護センター」に名称変更
改築をへて
平成14年愛称「ハローアニマルくまもと市」とする
「殺処分ゼロ」運動がスタート。
安易な引取りを断り、徹底的に飼い主を説得するようにする。
成犬も譲渡するように
写真入りの告示文書、迷い犬のHP掲載を始める
18年愛護係を新設、3係制となる
地域ねこ活動を開始「所有者が判明しないねこは引き取らない」
譲渡前講習会を始める
19年ガスによる殺処分を中止
犬の個別管理を確立
21年年間殺処分数犬1、ねこ6、計7頭に
(参考:平成9年の犬殺処分は946頭)
22年熊本市動物愛護推進協議会が第2回「日本動物大賞」を受賞
現在の職員数 20名 (うち獣医師資格者9名)
○熊本市動物愛護推進協議会、動物愛護推進員の状況
平成14年設立。
獣医師会、愛護団体、動物取扱業者、行政がひとつのテーブルにつく。
動物愛護推進員の推薦を行う。
推進員は上記協議会構成団体のほか盲導犬関連、市推薦、公募委員を含め計25名
かつて実験に使う動物を大学病院に提供していた事実があった。
これに動物愛護団体は反発。
動物愛護という目的は同じでも、なかなか意見がまとまらない。
空中分解も心配されたが、月1回の会合が定着。
最初は行政主導で会合の7割が市役所からの説明に終始していたが、
今では市は進行係のみ務め、8割の発言はメンバーからとなっている。
○その他、所長の話
・動物取扱業者との勉強会で、売ることだけでなく飼い主がきちんと管理できるよう、説明する
ように求めていった。
・迷子札100%運動を展開。親子で手作りの迷子札を作る集いに人気。
・「待っている犬」の写真を掲示。市内に告示場所20箇所。バス停など。問合せが来るように
なった。
・市HPへの工夫。奥のほうのページでなく市トップページの「新着情報」を活用。
「犬の新着情報」のようになることも。犬の情報は市のHP中でもアクセス数が常時10位以内。
写真にはその犬の性格まで表示。
・飼い主の責任(動物への責任、社会への責任)を譲渡会で強く訴える。
・ニャンニャンフォーラム事業
・センターの「入り」を少なく、「出る」を広くすること。譲渡のチャンスを広げ、安易に受け取ら
ない。
・新聞マスコミが「殺処分ゼロ」を取り上げてくれたことが大きかった。最初は上司も「ムリな目
標 」と冷めた見方。
・安易な引き取りは断るが、入ってくる頭数は減っているわけではない。しかし返還率が従来
の12%から45%にまで上げられた。返還率が上がると、1頭を長く置ける。その間、しつけ、
訓練、手入れができるようになる。譲渡会で人がたくさん来るようになれば、犬は性格さえ変
わるようになる。長所も短所も説明して譲渡。そのことで返されてくるケースも減った。
・犬の個別管理。寝室でもつないでいる。そのことでエサを食べた状況、フンの状態から健康を
チェックできる。
・譲渡の「出口」を広げるためにトリマーも1名から4名に増員。緊急雇用の制度を活用。
・シャンプーは月1回。来た日にトリム。その日のうちに貰われていった犬も。
・しつけの専門家も置く。
・皮膚病治療、フィラリア検査も徹底。はげていた犬も治療し元気に。
・動物愛護イベントでは「迷子レンジャー」が活躍。啓発にTシャツ制作、ポスターは3000枚。
・学校からのリクエストに応じ訪問、出前「ふれあい教室」。引き取られた犬ねこの処分について
説明し、後半は動物との触れ合いタイムを持つ。
・行政主導でなく熱心な市民ボランティアのパワーを味方に。「私たちに助けさせてください」
と1人の活動が17人のグループに広がった。年間160頭を引き取っている。
・譲渡の前に講習会を毎週水曜日。その受講をすませてから、譲渡。平日常時のほか、月に1日
は土日祭日にも。
・アニマルセラピーに携わる民間団体が2団体あり、連動して活動。
・「自分から動く」スタッフに恵まれたおかげ。「動物愛護団体」といえば過激な性格と言われ
るが、話し合い、理解のテーブルについて、いっしょに活動できるようになったことが大きい。
3.感想
ここに、動物愛護活動に熱心な知人がくれた資料があります。
「どの自治体が『犬に優しい』のか」について書かれた朝日新聞AERA。今年の6月21日号。
結論として「1位は熊本市」。以下、殺処分機を廃止した横浜市などの取り組みなども紹介されています。
この雑誌が採用した評価基準は、「致死方法」「返還・譲渡率」「情報公開度」「獣医師の関与度」など19の項目。これを採点し、ランキングをつけたものです。結果、2位は西宮市、3位は神奈川県。記事によると「明らかになったのは、自治体による動物愛護への温度差だった」。まさに同感です。
政令市と中核市では動物愛護の業務を都道府県でなく市が実施していることから、一般市である丸亀市が直接に対応すべきことではないかも知れません。
しかし実際に野良犬がいて、苦情がまず届くのは市役所や市議会議員ではないでしょうか。県への申し入れも含めて、私たちがアクションを起こさないですむものではないと思います。
11年前、私が議員になった頃に比べて、野犬への苦情はずいぶん減り、姿を見かけることもあまりなくなったように感じています。でもそれゆえに、たまに発見すると「危ない」と感じます。回想話で恐縮ですが、エサをやらないようご意見申し上げたところ、逆にその人から「噛みつかれた」ことも懐かしい思い出です。
いま私は、上記の記事をいただいた方が進める展示啓発活動を丸亀市内でも実現できないか、取り組んでいるところですが、よそのケースでは、「かわいそうすぎる」「イメージがダウンする」という声もあり、会場の確保にも一苦労されているのが実状です。
講演でお聞きした中にあったように、学校で出前「ふれあい教室」を実施し、現実を語った上で犬たちとのふれあいの時間を設ける、このことはとても効果的で教育的ではないでしょうか。そして所長がおっしゃるとおり、ヒステリックに、一方的に行政を「犬殺し」というほどに責めたり、動物取扱業者を敵視するのでなく、納得と情報共有で、市民のため動物のために共同戦線を張っていく、そのことに成功した自治体が、つまりは冒頭の「温度を上げている」ということになるのでしょう。
香川県がどう取り組むのかについては注目していくとして、直接犬、ねこと触れ合う最前線で、私たちもまた関心を持ち、積極的な啓発の場面を持つようにすべきではないでしょうか。熊本市のこの取り組みは、まるで災害が発端で市民活動が定着したように、「禍転じて」の言葉どおり、よりよきまちづくりのための共通素材となってくれているようです。現実を正視する、前向きな行政の取組みが市町にも必要と感じました。